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2013年3月5日火曜日

2012年度山川菊栄賞推薦の言葉

                                                                                       重藤都

 この研究は、大阪府東大阪市の長栄中学校夜間学級に学ぶ在日一世二世の女性達が、自治体に学びの場を保障させ、地域で在日朝鮮人女性が人としての主体確立を求めた運動の克明な記録です.彼女らはさらに運動を発展させ、平等な市民的社会空間の「下位の対抗的な公共圏」である「ウリソダン」などをつくりだして、家庭で女性に負わされてきた支援や介護の機能を社会の機能につくりかえ、加えて、民族文化の世代間交流伝承、多文化交流の場として創り出しました。そのユニークな経過の分析につながります。

 在日朝鮮人の集住地である長栄中学夜間学級は、開設まもなく生徒数全国一、そして大部分が中高年の女性となりました。国際識字年の1 9 9 0年頃には生徒数は全日制を上回り、教育委員会は生徒の半数を急ごしらえの近隣校へ移動させようとしたのですが、施設も急ごしらえ、教員数も少なく、女性たちは行政に朝鮮人差別があることを敏;感に受け止め、独立の夜間中学を要求、八年間ものたゆまぬ運動の結果、独立中学をかち取りました。

 私は2010年の韓国併合百年に際して、在日ハルモニから女性としての併合百年を伺ったことがあります。兄弟の勉強の横で、文字も教えられず育つ苦しみを聴き、解放後、朝鮮学校づくりに献身した情熱の背景と意味を知ることができました。その民族学校設立の運動は朝鮮人男女一致した運動だったと理解しました。

 しかし、この書に登場するのは女性。家業、家族の世話、生活苦を一身に担って、家から出ることなく、駅で切符を買えず、病院で医者の診断の意味が分からず、公衆トイレの男女別が分からず、厳しい差別と無知のなかにおかれた女性です。その彼女らが、子の独立父母の介護卒業を経て、自らの学校へと向かい始めた情熱の強さをこの書で知って圧倒されました。

 この研究の魅力は、半世紀にわたる犠牲にも損なわれないハルモニたちの個性、熱意、強い意志が描かれているから、夫の理解を得るねばり強い「交渉」「方法」がむしろユーモラスに描かれているからです。

 ハルモニたちの個性は学校の教師を呑み込むばかりです。はじめて本名を呼ばれて、ためらうハルモニに「あんたの名前やがな」と呼びかける教師。それは自己回復の貴重な一歩であったのです:が「あんたの名前やがなって、まいにーち言われました、先生に。あんとき教えてくれはった先生は、そういうことに情熱があったんです。授業よりもね」個性が躍るようなハルモニの記憶です。

 二十年を超える運動の記録と評価は、同族である筆者の強い愛情と広い見識に裏打ちされて提供されました。運動の参加者のみならず、私たちもこの労作を感謝とともに受け取りたいと思います。

                                        (しげとうみやこ 山川菊栄記念会選考委員)

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