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2015年3月5日木曜日

2014年度山川菊栄賞選考経過報告


2014年度山川菊栄賞選考経過の報告

                        2015228

                               井上輝子

 

すでにお知らせしてありますように、今日は山川菊栄記念婦人問題奨励金(通称山川菊栄賞)の最後の贈呈式となります。山川賞の選考を打ち切るに至った事情や、今後の山川菊栄記念会のあり方等については、この会の最後にやや詳しくお話することにして、今は今年度第34回山川賞の選考経過についてお話したいと思います。


今回は、20138月から20148月までの期間に刊行された著作物を対象として、昨年8月に、各種新聞に掲載を依頼すると共に、ハガキ送付やメーリングリストなどを通じて、広く推薦作品を募集しました。その結果、別刷リストにありますように、自薦・他薦を含め、45点の作品をご推薦いただきました。


このリストを基に、記念会では昨年923日と111日の2回にわたって選考委員会を開催し、慎重審議の結果、平井和子さんの『日本占領とジェンダー―米軍・売買春と日本女性たち』と、塚原久美さんの『中絶技術とリプロダクティダクティヴ・ライツ―フェミニスト倫理の視点から』の2作品に、今年度の奨励金をさしあげることに決定しました。決定に至るまでの選考委員会での議論の経過と、今年度の推薦作品の傾向、また特に注目された、いくつかの作品について、ここで簡単にご紹介させていただきます。


リストにありますように、今年度も多方面な分野の、しかもレベルの高い研究が数多く寄せられました。中でも例年になく今年度目立った研究領域を、2つほど紹介したいと思います。1つは、女性の性と生殖に関わる領域の研究が多かったことです。奨励金をさしあげるお二人の研究もそうですが、ほかにも15.小浜正子・松岡悦子編『アジアの出産と家族計画-「産む・産まない・産めない」身体をめぐる政治』、16荻野美穂『女のからだ―フェミニズム以後』、21角田由紀子『性と法律―変わったこと、変えたいこと』、また12非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ+長沖暁子『AIDで生まれるということ』も、この領域の作品に入れてよいと思います。


第2の領域として、セクシュアル・マイノリティ問題の研究があります。5三部倫子『カムアウトする親子―同性愛と家族の社会学』、11Gay Japan News 共同代表 山下梓『レズビアン・バイセクシュアル女性、トランスジェンダーの人々からみた暴力―性的指向・性別自認・性別表現を理由とした暴力の経験に関する50人のLBTへのインタビューから』、22クレア・マリー『「おネエことば」論』などがあります。また23大越愛子・倉橋耕平編『ジェンダーとセクシュアリティ―現代社会に育つまなざし』は、今挙げた2つの領域にまたがる論文集です。


このほか、例年同様、歴史分野の作品も数多く推薦されました。平井さんの作品もそうですが、6関口すみ子『菅野スガ再考―婦人矯風会から大逆事件へ』は、菅野スガのイメージが、男を惑わす「妖婦」として仕立て上げられていった過程を明らかにしたすぐれた言説分析です。同じ著者による7『良妻賢母主義から外れた人々』、8伊藤セツ『クラーラ・ツエトキン―ジェンダー平等と反戦の生涯』も、歴史研究です。18榊原千鶴『烈女伝-勇気をくれる明治の8人』は、山川菊栄の母青山千世に始まり、山川菊栄に終わる興味深い人選です。19伍賀偕子『敗戦直後を切り拓いた働く女性たち―『勤労婦人聯盟』と「きらく会」の絆』は、戦後の女性組合運動の貴重な記録です。その他、28進藤久美子『市川房枝と「大東亜戦争」』、29吉良智子『戦争と女性画家―もうひとつの近代美術』、30加藤千香子『近代日本の国民統合とジェンダー』、32松村由利子『お嬢さん、空を飛ぶ』、34松原宏之『虫喰う近代―1910年代社会衛生運動とアメリカの政治文化』、38森杲(たかし)『アメリカ<主婦>の仕事史』、39大森真紀『世紀転換期の女性労働』、43三成美保・姫岡とし子・小浜正子『歴史を読み替える―ジェンダーから見た世界史』、44安川寿之輔『福沢諭吉の教育論と女性論』など、歴史研究が数多くノミネートされました。


このほか、選考委員会で話題になった作品として、2園部裕子『フランスの西アフリカ出身移住女性の日常的実践―社会・文化的仲介による「自立」と「連帯」の位相』、これはフランスの旧植民地西アフリカ出身の移民女性たちのライフヒストリーと参与観察に基づく精緻な研究で、最近のフランスにおけるモスレム差別の問題などを考える上で、参考になる本です。また、3すぎむらなおみ『養護教諭の社会学―学校文化・ジェンダー・同化』は、経験的に多くの養護教諭が感じてきた、学校の中での被差別体験や学校の中での微妙な地位を読み解いた作品です。


さらに今年度特筆しておきたいのは、24高良留美子『世紀を超えるいのちの旅―循環し再生する文明へ』、45堀場清子『鱗片 ヒロシマとフクシマと』など、フェミニズムの大先輩たちが、新たに素晴らしい本を刊行されたことです。

この調子で紹介していくと、なかなか贈呈作品に行きつかないので、先を急ぎますが、いかに多様な素晴らしい作品が昨年度刊行されたかということがわかっていただけると思います。45点の作品の中から、第1回選考委員会では、
4平井和子さん、14塚原久美さん、29吉良智子さんの3作品について、第2回の選考委員会で詳しく検討することにしました。なお、言い忘れましたが、作品番号は、推薦が届いた順番にナンバーをつけたもので、評価とは関係ありません。これからお話いただくお二人の順番も、この作品番号の順にお願いしてありますので、念のため。



吉良さんの作品は、従来ほとんど知られていなかった、近代日本の女性画家たちの足跡をたどり、日本の美術史をジェンダー視点で読み解いた労作です。戦争中、女性画家も「女流美術奉公隊」を結成して戦争に協力しましたが、その総力を結集して描き上げた巨大な「大東亜戦皇国婦女皆働之図」を詳しく分析しています。とても興味深い本ですので、美術史に関心のある方には、ぜひ一読を薦めたいと思います。この作品で、吉良さんは、第29回青山なお賞を受賞されたと聞いています。


吉良さんの作品も、新しい分野に挑戦した価値あるご研究だと思いますが、選考委員会では、今日おいでくださっている4平井和子さんの『日本占領とジェンダー』と、12塚原久美さんの『中絶技術とリプロダクティダクティヴ・ライツ』の2作品に、今年度の奨励金をさしあげることに決定しました。お二人の作品については、この後、加納さんと浅倉さんから、それぞれ詳しい推薦の言葉がありますので、私の方からは、ごく簡単に、2作品の内容を紹介させていただいて、選考経過の報告を終わりにしたいと思います。


 平井さんのご本は、敗戦後の占領軍向けの「慰安所」と米軍基地売春の実態を、膨大な史料や聞き取り調査に基いて詳しく分析した研究です。特に、米軍によって接収された東富士演習場近くの御殿場をフィールドとした、地方都市における、行政・業者・警察・地元民と「パンパン」との関係の具体的描写は圧巻です。平井さんは、日米合作で、被占領女性への徹底した性管理と性病対策等がなされた事実を明らかにする一方で、1956年成立の売春防止法制定過程や売春防止法の枠組みに批判的なメスを入れておいでです。


 塚原さんのご本は、1970年代以後の中絶技術の進展によって、欧米諸国ではすでに
妊娠初期の中絶方法として、吸引と中絶薬が一般化しているにもかかわらず、日本では今でも拡張掻爬術が主な中絶手段となっているという衝撃的な事実を紹介した意欲的な作品です。塚原さんは、日本における「遅れた技術」が、中絶の残虐性イメージや中絶罪悪視の原因となっており、刑法堕胎罪の規程を補完していることを指摘し、現行法体制の抜本的改革と、当事者である女性たち自身の中絶についてのフェミニスト倫理の構築を訴えておいでです。


 お二人とも、女性の身体やセクシュアリティの権利と健康に迫るテーマで、今私たちが考えるべき課題を提起しておいでです。ぜひ多くの皆さんに読んでいただきたいと思います。お二人のスピーチの後、会場の皆さんを含め、お二人の話に対する感想や、女性の身体やセクシュアリティをめぐって、取り組むべき課題などについて、活発な討論ができればうれしく思います。


平井さん、塚原さん、おめでとうございます。

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