*石河康国さんからの投稿です。趣旨に賛成ですので掲載します。『社会主義』『科学的社会主義』にも、本年6月号ぐらいで紹介が掲載されるとのことです。(管理人)
向坂逸郎著作集(企画概要) 2025年2月
Ⅰ. デジタル書籍含む編纂の利点と特色
1,デジタル書籍とオンデマンドのペーパー本の二種類で刊行します。
ともに購入にあたっては全巻揃と、各巻ごとのいずれも可能です
2,体裁は、デジタル版、オンデマンド版ともに通常の書籍と同様に表紙・扉をデザインし、頁レイアウトにおいても本文、小見出し等も読みやすい書体とします。A5判縦組み、1頁52字・19行、1巻500頁、全16巻を予定しています。
3, デジタル版は、デジタル書籍特有の使い易さがあります。
➀各巻ごとに事項・人名などでの検索、目次からのジャンプなどが可能
です。②ダウンロードしてパソコンに保存できますので、紙の本とちが
い保管場所をとりません。③パソコンに保存しておけば、自宅でも外出
先でも読むことができます。④必要部分をとりだしてプリント可能。
4,旧漢字、旧かな遣いについては、原則として引用文と人名・書誌名を除き現代漢字、かな遣いにあらためました。
5,原則として初出年月順としましたが、論文のテーマ、時代状況などを勘案しできるだけ巻ごとに特色が出るように編纂しました。
6,対談・座談会・講演ないしインタビューの筆記・翻訳・書簡はのぞき、紙誌ならびに単行本に発表された論稿のうち約8割を収録しました。
7,戦前の論文の伏字は、確定できるもののみ起こしました。
8.各巻に、論文ごとの解題を付しました。
Ⅱ. 巻別編成案
第1巻 初期著作 1928~1930
ドイツ留学でマルクス主義を研鑽。帰国し九大に赴任。「価値と生産価格」「人口理論」など史的唯物論にたったマルクス経済学理解を示す。九大を追われ、世界初の『マルクス・エンゲルス全集』(改造社)編纂に携わりつつ、小泉信三批判などで論壇に登場。『労農』同人として堺利彦、山川均らにしたがい理論分野で協力。ほとんどが再録されていない論稿。
第2巻 地代論論争関係・『レーニン伝』など 1931~1933
日本のマルクス経済学研究を本格化させた価値論争、地代論争に参加。高田保馬、河上肇らを縦横に批判し差額地代論では今日定説とされる理解を確立。『資本論』の諸論点とされた問題に明快な見解を示す論稿を収める。向坂はレーニンに注目しており、日本最初の本格的な「レーニン伝」も著す。地代論関係以外はほとんど再録されていない。
第3巻 改造社『資本論体系』上(1932)、下(1931)
改造社『経済学全集』の一部として『資本論』第一巻と第三巻の概要をまとめたものであるが、価値論論争、地代論論争で扱われた諸論点についても網羅している。『資本論』に加えられた批判をふまえ、当時の『資本論』理解の最高レベルを示した。向坂最初の書下ろし単行本で、初の復刊である。
第4巻 日本資本主義論争関係1、自由主義論関係など 1933~1935
日本マルクス主義の二大潮流である『労農』派と講座派の土台を定めた日本資本主義論争をリードした諸論稿。一方向坂は河合栄治郎や自由主義者を総合雑誌で辛辣に批評し多くの論争を呼んだ。また資本主義の全般的危機下に流行った「統制経済論」も意欲的に批評。資本主義論争以外はほとんど初の再録。
第5巻 日本資本主義論争関係2、反ファシズム関係など1935~1942
資本主義論争は日本農業についての実証的な分析に比重が移るが、それも度重なる論者の検挙で強制的に中断させられる。ファシズムに抗しイソップの言葉で社会批評をつづけ、暗黒の時代に虚無に陥りがちな知識人や青年への励ましの文章など多く収録。人民戦線事件で検挙され保釈後は農業とわずかの翻訳で糊口をしのぐ。資本主義論争以外は初の再録。
第6巻 戦後激動と平和革命論 1945~1948
敗戦直後、向坂は山川均の民主人民戦線に協力する。「解放軍規定」から産別会議2.1ゼネストにいたる解放感に浸る時期に、共産党、社会党内外で「革命」論議が交わされる。しかし向坂は冷徹に山川と社会変革のあり方として平和革命論を考究する。また理論誌『唯物史観』を発刊し、マルクス・エンゲルスの思想形成過程についての諸論稿を発表。約半数は初の再録。
第7巻 戦後労農派の模索 1949~1951
『労農』派は雑誌『前進』を拠点に集まるが、社会党の評価やソ連社会主義の性格規定など模索が続き、共産党も民族主義的偏向をしめす。左翼の理論的な混迷に向坂は民族問題などを中心に、左右の偏向に批判を加える。
第8巻 『経済学方法論』(1949~1950)
マルクス・エンゲルスの唯物史観から『資本論』にいたる思索を探求して総括した向坂の経済学の集大成である。九州大学に於ける講義をもとにしたと言われるが、アカデミックな「経済原論」とは異なる「マルクス主義者」向坂の面目躍如たる書。マルクスの歴史的・論理的方法を精緻に論じた書としても稀有。
第9巻 左派社会党と社会主義協会 1951~1954
向坂は山川とともに社会主義協会を発足させ、社会党の「平和四原則」「非武装憲法」擁護の論陣を張った。左派社会党「綱領」策定など左派社会党に全力で協力した。日本共産党批判にも力を入れた。一方「市場価値論と相対的剰余価値論」や社会主義社会と価値法則など、理論問題の論稿を発表。
第10巻 社会党と総評 1954~1956
向坂は左右社会党の無原則合同に反対であったが、合同した社会党の強化に努め、社会党の綱領的路線としての「平和革命」についても考究を重ねる。また三池労組の学習活動に尽力し、その実践を踏まえて総評にも積極的に提言をしていく。理論活動としては「マルクス経済学の方法」、「資本主義における失業の不可避性」など発表。
第11巻 スターリン批判、「窮乏化」議論 1956~1959
スターリン批判は日本の左翼総体に理論的衝撃をあたえ、「窮乏化」論などについて百家争鳴の議論も惹起した。向坂は理論的混乱を正す論陣をはる。またスターリン批判や「平和的共存」論に対しては、かねて山川均ら『労農』派が指摘してきたことと同じだという態度で、各界の過剰反応や誤解を批評する。
第12巻 三池闘争と構造改革論争 1959~1963
60年安保・三池闘争を控え、向坂は三池労組への支援と、安保条約賛成の社会党西尾派への批判を展開。また60年安保・三池闘争の「敗北」を機に社会党内外に起きた構造改革論論争にも参加し、総評・社会党の進路に大きな影響を与えた。
第13巻 『マルクス伝』(1962)
執筆に数年をかけた質量ともに、メーリングのそれと並ぶ世界的なレベルの伝記である。『経済学方法論』にならぶ向坂の二大書下ろしである。大内兵衛の『マルクス・エンゲルス小伝』(岩波新書)は本書の「ダイジェスト」と大内は自称している。
第14巻 『流れに抗して』 疎外論論争 1963~1966
『流れに抗して』は自伝で敗戦直後までを回想している。60年代は世界的にもマルクス主義をめぐる論争が盛んであり、向坂は「窮乏化論」と合わせて内外で問題とされたマルクスの「疎外論」にもたびたび論及した。
第15巻 『資本論入門』、社会党・総評の高揚 1967~1971
『資本論入門』(岩波新書)は平易な語り口で愛読者は多い。70年代初旬は社会党・総評運動が高揚した時期であり、向坂は適確な提言をおこなった。向坂が三池に次いで援助した国鉄労組は、総評の中軸として反マル生闘争などで高揚を支えた。
第16巻 晩年の著作。『戦士の碑』『わが資本論』など 1971~1985
晩年には回想の佳品がおおい。『戦士の碑』は堺利彦・山川均から葉山嘉樹、里村欣三に至るまで実際に接した人物の回想録である。『わが資本論』は『流れに抗して』を補う理論的な自伝でもある。
Ⅲ. 出版の段取り
発行元 株式会社旬報社。和気誠・和氣文子『向坂逸郎著作年表』の発行元。*『労働法律旬報』、『賃金と社会保障』、『月刊教育』、『月刊社会教育』などの雑誌、『日本労働年鑑』、『世界の社会福祉年鑑』定期刊行。『環境問題資料集成』(14巻)、『日本労働運動資料集成』(13巻)、『渡辺治著作集』(16巻)、『佐高信評伝選』(7巻)など刊行。『西谷敏著作集』(12巻)、『二村一夫著作集』(8巻)を刊行中。
発行時期 2026年を目指すが作業の進捗状況次第。デジタル本なので全巻まとめて刊行。デジタル本が完成すれば、オンデマンド本は適宜受付可能。
価格 デジタル版、オンデマンド版ともに各巻ごとの購入が可能です。
以下はあくまで予定です。
① デジタル版は各巻1万円程度。②デジタル版の16巻全巻揃定価は16万円(割引価格検討)。③オンデマンド版は、資材費や印刷製本代がかかるため、価格は1巻につき1万円以内になるよう努力、④オンデマンド 本全巻揃は16万円(割引価格検討)以内になるよう努力。
それぞれ、販売見込み、作業量などをもとに旬報社が最終決定します。