小島恒久先生の歌集『晩禱』(現代短歌社 2014.1)が刊行されました。前歌集『原子野』(短歌新聞社 2005.11)に次ぐ第二歌集です。
小島恒久先生は九州大学名誉教授、社会主義協会代表です。専門は経済学で、『経済学入門』(労大新書)などこの方面での多くの著書があります。向坂逸郎直系の弟子で、研究上も社会実践上も、向坂逸郎の志を直接受け継いでいます。
小島先生は同時に写実を重視するアララギ派の歌人でもあり、過去にも朝日新聞「折々の歌」に取りあげられたことがありました。
題名の『晩禱』は、「みずからも晩年にある私の、先立った人びとに捧げるささやかなレクイエム(鎮魂歌)という思い」と先生はあとがきで述べています。
『晩禱』には、高野長英、渡辺崋山、徳富蘆花、長塚節ら歴史的人物から向坂逸郎、大内兵衛、さらにすでに故人となった多くの同世代の友人までの先人を偲ぶ歌、長崎での被爆体験の思いを詠んだ歌、社会問題、国際問題にアプローチした歌など、さまざまな短歌が計六〇三首収録されています。その全貌を紹介するのは容易なことではありませんが、以下私の独断で二〇首選んでみました。小島先生の短歌の世界をさらに味わいたい方は、ぜひ『晩禱』を書店で注文し直接ご覧ください。
『晩禱』書誌情報 ISBN978-4-86534-001-3 定価2500円(本体2381円+税)2014年1月20日発行 現代短歌社(電話03-5804-7100)
(歌の配列順は『晩禱』掲載順、かっこ内は原文ではルビ)
被爆死の友らは永久に若くして傘寿の宴の壇上に笑む
受けよとの勧めはあれど師を思ひ同志ら思へば叙勲辞すべき
時流に乗る器用さなければ一つ思想愚かに守り来ぬ悔やまず今は
ソ連の解体見ずに逝かしし先生を死に上手と言ふ背きし弟子が
世に抗し師説を守るわれら少数大方は利に付きて離(さか)りぬ
戦死者の六割がああ餓死と言ふ太平洋戦争の英霊あはれ
アンネあらばいかに嘆かむ祖国の兵が罪なきガザの子かく危むるを
教ふるとは恥しのぶこと己が無知に幾度ほぞかみ壇を下りしか
過労死増え働く貧困層(ワーキング・プア)増えゆくにデモもストもせぬ労組歯がゆし
慰霊祭も市と患者とで別にもつ水俣に残る亀裂は深く
慰安婦にも集団自決にも「軍の関与」を消して歴史をまた歪めゆく
かの夏浴びし放射能がわが身内にひそみ癌となり出づ六十年経て
日露戦の勝利に狂喜し驕る日本を「亡国の初め」と蘆花は断じき
俺も征くと特攻檄せし司令官は征かず永らへ卒寿まで生きぬ
書を捨てよ革命近しと吾に迫りし全共闘の彼のその後を聞かず
コストを惜しみ想定低く見積もりゐて「想定外」と責任回避す
断れば職失ふゆゑ派遣社員は現場に働く被曝ををかして
人住めぬ廃墟となりしチェルノブイリの轍踏みゆくかわがフクシマも
明日の危険よりも今日の利を欲り原発の再稼働のぞむ過疎の地元が
若く被爆し原爆症病むわが終のつとめと叫ぶ「脱原発」を